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【月イチ宮台】黒川弘務問題と新型コロナ問題にみる日本の劣化|2020.05.12放送

投稿者:miyadai
投稿日時:2020-05-14 - 20:27:17
カテゴリー:お仕事で書いた文章 - トラックバック(0)
【月イチ宮台】黒川弘務問題と新型コロナ問題にみる日本の劣化
 JAM The World | J-WAVE|2020.05.12(火)放送
   青木理さん:ジャーナリスト
   宮台真司 :社会学者/東京都立大学教授
   (文字起こし:立石絢佳さん Twitter:@ayaka_tateeshi)
     ※若干の語句の変更と補いがあります

▶️『#検察庁法改正案に抗議します』は安倍のヘタレっぷりが招いた結果

(前半)
青木理(以下、青木): 今夜は火曜日の月一恒例企画になりました「月イチ宮台」。社会学者で東京都立大学教授の宮台真司先生にリモートでエキサイティングなお話を伺おうと思います。宮台さんこんばんは。

宮台真司(以下、宮台): はい、こんばんは。よろしくお願いします。

青木: 今月もよろしくお願いします。1ヶ月早いもので、もうあっという間なんですけども、宮台さん、『音楽が聴けなくなる日』という本を集英社新書から出されるということなんですけども、これはいつ発売なんですか?

宮台: 5月15日の発売ですね。Amazonの予約などでもう購入できます。15日あたりには届くと思います。永田夏来さんという社会学者の方と、かがりはるきさんという音楽研究者の方が、共著者ですね。

青木: ご共著で。まだ手元にはないんですが、本の帯を拝見すると電気グルーヴのピエール瀧さんが麻薬取締法違反で逮捕されて、いろんな自粛現象というかですね、在庫回収とか配信停止ということが起きたと。こういう自粛の状況というものを、『音楽が聴けなくなる日』というタイトルの中でいろいろ論考されているということなんですけれど、宮台さんの思いとかお考えとか伺ってもいいですか。

宮台: いまコロナ禍で、社会が混乱しています。より正確に言えば、それぞれの社会の性能、たとえば統治機構の性能や、統治者の性能や、人々の性能つまり民度が試されています。共通一次試験やセンター試験みたいなもので、ほぼ同じ条件の下でいろんな社会が試されていますが、日本が際立ってダメさを露呈している状況です。なので、この本を読んでいただけると、日本のどういうところが徹底的にダメなのかがよく分かるようになっています。コロナを想定して書いてはいませんけれども、実は、どこをとっても、今の日本、つまり人々や政治家のダメさが、金太郎飴のように同じなんですね。[だからコロナ禍における日本のダメさの分析と同じ意味を持つ本になっています。]

青木: そういう意味でいうと、まさに月イチで今日も伺いたいことがあるんですけれども。その前に僕自身も興味ありますし、リスナーの方からも宮台先生に質問が来ています。

ラジオネーム: ネクストさん
「ツイッターで『#検察庁法改正案に抗議します』というツイートが500万件超えて拡散されたことが話題になっています。これは一過性のものとお考えですか。それとも政治を変えるきっかけとなりうる持続的な影響力があると思いますか」

 この質問に対する回答と、検察庁法改正案の動きについて、宮台さんはどんなふうにお捉えになっているかお話を伺いたんですが。

宮台: ふっふっふ(笑)。これはもちろん、自分が違法な振る舞いをして、そのことを自覚している安倍が、検察庁長官を変えないと自分のお手々が後ろに回って牢屋にぶち込まれることを、恐れているわけです。まぁ「黒川弘務に変えておけば……」と。もともと過去10年以上に渡っていろいろな事件をもみ消してきた、もみ消しの帝王として知られる人だからね[村木厚子厚労次官冤罪後の検察改革検討会議人選介入、小渕優子問題の揉み消し、甘利明問題の揉み消しなど]。

青木: うん(笑)。

宮台: 簡単にいうと「自分の出世のために政権のケツを舐めてもみ消してきたクズ」という昨今定番の図式なんですよね。だから僕は2月下旬に短歌でこう歌いました。[すると瞬く間に、大勢が本歌取りしてくれました。]

 国辱の
 頂(いただき)究めた
 安倍晋三
 黒川やめれば
 すぐ牢屋行き

 悪いことをしたって自覚があるんだから、正々堂々と牢屋に入れ、コラ! お手々が後ろに回るのがそんなに怖いか、安倍晋三!ってことで、意見の開陳はおしまいです。

青木: なるほど。このツイッターというところのムーブメント、500万件を超えたってことを、政権与党なんかは「こんなものは膨らますことができるんだ」と言って軽んじようとしているようなんですけども。

宮台: ですが、計算社会科学者tori氏が、そういうことはないことを数理的に実証しています(笑)。[https://note.com/torix/n/n5074423f17cd]
それはですね、ツイッター社から公表されているツイート数の時間的変化[特にスケールフリー性]から数理的に分析すると、Botによるものではないこと、全ツイートに含まれる新規アカウント割合が0.3%だったから、特定の人間たちがアカウントを作ってばら撒いたものでもないことが、実証されるということです。与党議員やウヨ豚を含む「安倍ケツ舐め勢力」による言いがかりは科学的に反証されてるんですね。

青木: だとすれば、この500万という数字はかなり注目すべきものなのか、注目すべきものだとするならば、これだけ広がった理由というか背景というのはどんなふうに分析されますか。

宮台: 安倍の、ヘタレぶりと、卑怯さですね。悪事を働いた自覚があるのに、国民全体にとって意味を持つ法を曲げて、牢屋に入らないでおこうというのは、まさに政治家にあるまじき振る舞いですよね。
 政治家の倫理は「一般よりも高潔であるべきだ」というのがマックス・ウェーバー[ドイツの政治学者・社会学者・経済学者]が言ったことですよね。彼が言うには、法を守っていたら国民を守れない場合、いざとなれば血祭りに挙げられることを覚悟して法を破るのが、あるべき政治家なんですね。
 安倍はどうか。何としても法の内側にいるんだというウソをでっちあげ、違法な振る舞いをしたことが明らかなのに何とか逃れようとする。あるべき政治家どころか、一般市民に比べても明らかに劣るんです。[教養や知識だけでなく]人格的にも倫理的にも「国民を思う心がない」という意味でもダメ中のダメですね。それが明らかになったので、多くの人が憤激しているわけです。
 もちろん似たことは過去もあった。それは敗戦のあとの反省において明らかになったことです。海軍軍令部、陸軍参謀本部、本当に酷かった。レイテ戦とかインパール作戦とかね9割以上が病気と餓死で死んでいる。[戦闘で死んだんじゃなく、参謀本部の出鱈目な作戦で死んだのに]中央で指揮をしていた連中は、東京裁判で[内心忸怩たる思いはあったが、空気に抗えなかったというショボイ言い訳をして]徹底的に言い逃れをしようとした。アメリカがたまたま東京裁判を主導してくれたせいで一部は絞首刑になったけれど、日本人にはその力がなかったわけだよね。それもあって、直後の日本人は、たとえば一部の人[憲法学者の奥平康弘先生]が言うところの憲法感情において、そういうやつは許せないし、そういうやつが二度と指導者層に来ないように、ちゃんと国を作り変えたいという気持ちになったこともありました。
 でも忘れちゃったでしょ、1960年代に入るまでには忘れているんです。それは小熊英二さんという人[社会学者]が『民主と愛国』という本でデータから明らかにした通りです。いろんなデータからも分かりますが、その意味で[憲法感情は]一過性でした。続かなかったんです。


▶️安倍晋三は日本のダメさをあぶり出す中興の祖として機能する


宮台: しかし、青木さんも先程おっしゃったことが重要で、ここまで安倍が人間としてダメであることが明らかになったことで、これは政局になる可能性があります。自分の保身のためにだけ法律を曲げるような政治家が総裁であるような党、というだけでも、ブランドにめちゃめちゃ傷が付きます。で、もう傷が付きまくってますよね。
 もちろん安倍だけじゃない。何かというと[安倍昭恵は私人であるなどと数々の滑稽な]閣議決定してきた閣僚も、安倍の周りにいる「君側の奸」(笑)ともいうべき官邸官僚も、国民のためじゃなくて自分の保身のために安倍のケツを舐めてきたという意味で、安倍一人のせいではない。
 けれども、ここで何とかしなければ、自民党がどうなるこうなるということだけじゃなくて、基本的に、日本人の社会のプラットフォームがぐじゃぐじゃになってしまうんです。たとえば遵法動機。「首相が平気で悪いことをしときながら、法を曲げて逃れようとしてるんだから、俺たち法を守らなくていいんじゃない?」「俺に自白しろっていうなら、安倍をつかまえて自白させてから出直せよ」って人間が出てくるのは自然です。
 悪い政治家たちを捕まえようと思っていた検察官たちの意欲も多いに挫かれます。黒川弘務が長官になれば、正義を貫徹しようという検事たちの努力が、最終段階で握りつぶされる可能性があるからです。病気が体中を蝕むように日本中に広がって、日本全体をダメにするだろうという予感が多くの人にあるわけ。だからツイッターデモが盛り上がっている。
 これは、プラットフォーム上でのゲームが間違っているっていう一般犯罪の問題じゃなくて、ゲームがクズすぎてプラットフォーム自体が崩れてしまうという国体の破壊という問題です。「ゲームの妥当性の問題じゃなく、プラットフォームを守れるのかどうかって問題なんだ」というふうに多くの人が気がついたということですよね。同じ理由で政局にもなるわけです。

青木: 気がついたというのは、ある意味でコロナという、我々の目の前に生命を脅かしかねないようなものが現れたときに、政治が無能というか、政治が機能してないと、こんなに被害を受けるんだってことが実感としてわかったということが、これまでは政治的な発言を控えていた著名人の人たちが声をあげたってことにもつながったと、こういうふうに見るわけですか。

宮台: そう見るべきですね。ただし、何度も[この番組に]出てくる度に僕が申し上げているように、「安倍のせいだ」というふうに考えるのはまずいし、「官邸官僚のせいだ」と考えることもまずいんですね。
 菅義偉官房長官のやり方だけれども、劣等感をテコに人を操ってきたんですね。干したあとで政権に参画させると「クソをついたケツでも舐める」っていう政治家がいっぱい居たでしょう? 同じように、入省順位も下で劣等感にさいなまれている省庁キャリア官僚を、官邸官僚として呼んで取り立てると、やっぱり「クソをついたケツでも舐める」。つまり劣等感による操縦ですね。
 その意味で、このゲームに関わっている人間って、めちゃめちゃたくさんいるわけです。自分よりも無能で、道徳的にも劣るヤツが、自分の頭越しにいい場所について権力を得ると、それまで倫理的だった政治家もキャリア官僚もどんどん崩れていくってことが、病巣が全身に転移するように起こっているんです。ポジション取りのカメレオンに過ぎない、という三島由紀夫が言う日本人の空っぽさが、ものすごく目に見えるようになってきたんだということです。
 だからこそ、僕は安倍が二期目をやることにも賛成だったし、安倍政権が長く続いてほしいとずっと言い続けてきた。それは、日本のダメさを加速的にあぶり出して再建のきっかけを与える「中興の祖」として、機能するからなんですよ。中国の習近平も、同じ意味で中国では「加速師」って呼ばれているんです。安倍晋三も「加速師」です。日本人や日本組織の、いろんなところに張り付いているダメさを、あぶり出してくれたって意味で、非常に重要。
 あぶり出されたのは安倍のダメさというより、日本の人と組織のダメさだってことを勘違いしちゃいけない。日本文化のもつ弱点だと言えます。[進化生物学的に言えば]かつての状況下は、それで人と組織と国が生き残れた文化的作法が、これからの状況では人も組織も国も加速的に墜落させるわけですね。

青木: それに関連して、リスナーの方からメールが来ています。

「宮台さんは加速主義を標榜されていて、わたくしもこの国は行くところまで行かねば、もはや外に出ることができないと感じています。しかし一方で、段々と長期的な専制政治体制に近づいていくことには強い恐怖も禁じえません。宮台さんはどの程度まで国が壊れることを許容されていますか」

宮台: とてもいい質問ですね。国が1回地位を落とした後──日本は既に経済も政治も社会も崩れているんだけど[https://togetter.com/li/1434201]──これじゃダメだってリバウンドしたとしましょう。でも、リバウンドの方向がどっちに行くのかを、いまから予想することはできないんですよ。もちろん安倍のあとのリバウンドであれば、少なくとも「安倍方向」ではないということだけは言えます。
 従って、そこでいろんなバトルが繰り広げられるってことが肝心で、そこで僕たち日本人が真に試されるということだと思います。それでダメなら、また次のチャンスを狙うしかないわけだけれど、[チャンスの利用が遅れるほど国は三流・四流に落ちますから]今回、安倍の御蔭で加速的にあぶり出された日本のダメさを、奇貨として利用するしかないんです。
 実は今回は新型コロナのディザスター(禍い)がきっかけで加速された面が大きいけれど、安倍と官邸官僚なんかにしてみれば[憲法13条で統治権力の義務として規定されている]国民の生命と安全を守る気概がないことがバレバレになったという点で、神風の反対ですね。国民にとっては神風ですが(笑)。
 しかし日本国民にとっては、新型コロナ対策をめぐって、いまだに配り切れていないアベノマスクとか、いまだに配られていない10万円とか休業補償や融資とか、最近までクラスター対策にへばりついたままだった厚生労働省やクラスター対策班や、いまだにダントツで先進国最低のPCR検査率とかを含めて、安倍や周囲のケツ舐め集団のダメさを、加速的にあぶり出してくれたってことで、やっぱりコロナのおかげで神風が吹いたんですね。


▶️マスメディアの劣化は安倍政権の劣化と同じ

青木: いまクラスター対策班という話も出ましたけど、多くの人が感じているんじゃないかと思うんですが、政治、官僚とかいうものの歪みというのもそうなんですけれど、いわゆる科学者。原発事故のときもそうだったんだけれど、政権の周辺にいる科学者への不信感というか。今回、宮台さんご自身でまとめられたツイート備忘録の中でもクラスター対策班のダメさっていうのをご指摘されてるじゃないですか。ある種エリートの科学者であるはずで、その道の専門家であるはずなのに、なぜダメなのか、どこがダメなのか、もう少し宮台さんの解説というか、お話を伺えますか。


宮台: 学問より保身が優先すること。二つあります。一つは権威がほしくて政権のケツを舐めることで、もう一つは国民のケツを舐める点ですね。日本人の多くは諸外国には見られない変な振る舞い方をします。それは安心厨=ゼロリスクマニアってことだけど、学者たちが安心厨のケツを舐めるんです。[これは、安心厨のケツを舐める政権・のケツを舐める有識者という形で結びついている]。
 安心厨には二つの要素がある。一つは善政で知られる江戸時代以来の、伝統的作法なんだけど、「お上に任せときゃ大丈夫!」っていう思考停止の依存厨に由来する「お上を批判するとは、不安を煽るのか!」っていう噴き上がりってやつですね。
 あと、もう一つは、周りをキョロ目で生きている同調厨。これは『音楽が聴けなくなる日』にも書いてある「キョロ目企業ソニー」を批判したのと同じロジックだけど、絶えず周りを見回してキョロキョロしている人間って、同調しない人間を見つけ出すと、自分が否定されたと感じて嫌な気持ちがしたり、キョロ目しないで自由に生きる人間に対して嫉妬したりするんです。これは不倫炎上なんかにも見られる典型的な日本人だけの劣等感ですね。
 その二つの要素ですよね。面白いことに、絶えずキョロ目で周りに同調したがる同調厨と、絶えず「安倍は大丈夫なんだ!」と思考停止で依存したがる依存厨が、だいたい重なっている。そういう自分で思考する力のない同調厨と依存厨が、安心厨になるわけです。「安心です! 安心です! クラスター対策をやっているから安心です!」……んなわけないじゃん。
 クラスター対策の賞味期限は、クラスター対策で捕捉できないところで感染者が出てくるまで。でも、ある段階から補足できない感染者が出まくった。出まくったのにも関わらず、政府からもクラスター対策班からもプランAの次のプランBが出てこなかったんです。考えてなかったならば、ただの頓馬です。  
 [そこまで頓馬ではないだろうということで]中にはうがった見方も出てきて、「もともとPCR検査をするだけのキャパシティがなかったし、それを一挙に広げるだけの政治的な実力も安倍にはない以上、できることはクラスター対策だけだったから、仕方なくそれを言っていたんだ」と。だとすれば、それも非科学的な発想です。[それは単なる「依らしむべし・知らしむべからず」で少しも科学的ではない。]
 専門家の劣化ぶりは、まずマスコミの劣化ぶりと結びついています。毎日、「感染者数が何名でした」とか言ってるでしょ。これ、パーフェクトにナンセンス。だってちょっとしか検査してないから(笑)。グラフを見ればわかるんだけど、検査数と感染者数って相関してるんですよ。だから検査が多い日は感染者がいっぱいでてくる。検査が少なくなると、感染者が少なくなる。バカげてると思いませんか。そうではなくて、捕捉できない人がいっぱい広がっているんだから、ろくに検査もしていない中で感染者数の数なんて、いくら言ってもダメで、「どれだけをどんな方法で検査したから分母はこういう数で、そこから見つかったこれだけの感染者数が分子です」ってことを言わなきゃ科学的じゃないんです。
 さらに他方で、全数PCRすればいんだという「全数検査厨」っていうのもいるわけよ。これも思考停止。日本に全数検査をする力はないってとっくに分かっているわけ。というのは、2009年の新型インフルエンザのときに、感染症の専門のCDCのような独立機関を作らなかったという民主党政権の失敗があるからで、これからも当分できないんですよ。でも、できないことはできないとしても、できることがあるんですよ。それは疫学調査。
 いろんなところで言ってきたけど、ある程度の数のPCR検査できれば本当は全国的ランダムサンプリングがいいけれど、それだけの数のPCR検査さえできないとなれば、ゾーニングして割り当て調査をすればいい。「東京の都市部では・郊外では」「大阪の都市部では・郊外では」「それぞれの地方都市では・郊外では」というふうにゾーンを設定した上で、規模に比例する数を割り当てて無作為で調べて、感染率と[簡便な抗体検査キットが既に開発されているので]最近は大事だけれど抗体保持率をはじき出す必要がある。
 これも何度も言ってきたけれど、抗体を持っているからといって免疫があるとは限らないんですね。中立的な抗体や病気を重篤化させる抗体もあるので、簡単に言えない。けれど、既に感染した人がどれだけ居たかという既往歴の証明になるあるので、抗体保持者をカウントするのは大事なんですね。それで初めてゾーンごとの感染率・抗体保持率と、全国的な感染率・抗体保持率が出てくるんです。
 現実的な選択肢のなかで、科学的に意味がある方法はこれだけです。何度も言いますが、マスコミが毎日天気予報のように「今日の感染者数は~」ってバカ丸出しでしょ。いい加減にやめてほしい。全く意味がないんでね。分母がわからない状態や、分母の意味が規定されていない状態で、なんで感染者数だけ言うんだよ。なんの意味もない数に天気予報みたいに流すマスコミもさることながら、一喜一憂する国民も劣化しています。

青木: そういう意味でいうと期せずしてそれしか報じるものがないってこともあるんだろうけれど、発表されると右から左に垂れ流し、その数字で一喜一憂して「勝った勝った」「負けた負けた」みたいな状況になっちゃってるってことですね。

宮台: それがマスメディアの劣化です。感染者数だけ報じて、その意味を言わないっていうところは大問題。それを言わないことで、あたかも感染者数が減って、いい方向に向かっているかのような錯覚を起こさせるという点で[加えて、その錯覚を利用して外出自粛要請の解除を進めたがる政治の片棒をかつぐという点で]メディアの罪は非常に重いし、罪は重い以前に、錯覚を意図していないのだとすれば、単に劣化してます。この劣化は、安倍の劣化や政権の劣化と金太郎飴です。


ミュージック


(後半)
▶日本人が『安心厨』であるのをいいことにプランBをさぼったクラスター対策班

青木: 前半の議論の中でクラスター対策班の続きをもう少し聞きたいんですけれども。先程、当初は新型コロナ対策とかMARSとかの対策をちゃんとしなかったので、日本にはPCR検査の準備ができていなかったから、限界があるから、クラスター対策というものに注力せざるを得なかったとして、プランBを作っておくべきじゃなかったか、という話をされましたよね。

宮台: 当然ですね。

青木: このプランB、現実的には検査体制を増やすというのは政治の役割なわけじゃないですか。科学者としてクラスター対策班が出してダメだったのか、そもそも出さなかったのか、どっちにしてもダメなんですけれども。科学者として「こうすべきです」ってことを言わなかったとするんだったら、やっぱりこれは科学者の劣化なんですか?

宮台: 科学者の一部は日本ではかなり劣化しています。ナントカ審議会とかナントカ委員会とかナントカ会議に呼ばれるだけで「名誉だ」と考える学者って、実にたくさんいるんですよ。日本では審議会の委員を2回やると勲章をもらえるっていう慣例があるのも、背景にあるかもしれませんけどね。そうした連中は、政権や官僚のケツをよく舐めます。実際、そういう人間ばかりが多数派になるように、厚生労働省が、あるいは原発事故直後であれば経産省が、人選をしてきた、という厳然たる事実があります。[英国ではこのやり方による弊害が目立ったので、委員会の人選を、官僚でなく、独立行政委員会がやるようになった。]
 そういうふうに人選された委員会の中で、座長・副座長の言っていることに異を唱えるって、他のメンバーである日本人には、どうも勇気がいることらしいんですね(笑)。なので、終わってから──終わってというのは「あとの祭り」になってから──クラスター対策班の一部学者が「37.5度うんぬんは国民の勘違いである」とか言い出したわけです(笑)[そして阿吽の呼吸で加藤厚労大臣がそれを追認する答弁をした]。
 さっきも言ったけど、もともと日本には検査インフラが準備段階にすらない状態だったんで、クラスター対策しかとれなかったんですよ。選択肢がいろいろある中で、クラスター対策という戦略を、いろんなユーティリティ(効用)を考えて選んだのじゃない。「それしかできることがなかった」ってことです。ところが、後になってから、クラスター対策班の先生方の中から、まさにそういう言い訳をする人が出てきた。
 だったらそれを最初からディスクローズ(情報公開)するべきでしょう。「日本には選択肢がなく、できることはそれしかないから、それをやらせてくれ」と言うべきでしょう。ところが、日本人の大半が「安心厨」だってことを前提にして、言わないで黙ってて、いざとなったら「本当はあのときは分かっていたんだ」って言い出すっていうのは、卑怯じゃありませんか。
 「本当はあのとき分かっていたんだよ」っていうなら、それがうまく行かなくなる段階に備えて、別のやり方、つまりプランBの準備を、早急に整えるのが倫理でしょう。別のやり方にはいろいろあります。PCR検査を劇的に増やすのもある。アメリカでは初期は日本よりも検査数が少なかったけど、大学まで総動員して劇的に増やしました。日本は増えていない。増やせないのであれば疫学調査のための体制を整えるってのもあるでしょう。それもこれもできないという状況で、クラスター対策だけ続けるなら、その間に中国のように全力で病床をめちゃめちゃ増やす努力をやるべきでした。でも、やらなかった。
 さらに、これは非常に重要な問題だけど、「休業要請しかできなかったから効果がなかった、もっと強権が必要だ」とホザく政治家もいる。そうじゃない。[それこそ、村木さん冤罪事件でできた「検察のあり方検討会議」が黒川弘務の策動で、いつの間にか検察権力の強化にすり替わったように、火事場泥棒です]。実際リサーチしてみればいい。僕も近所をリサーチしましたが「すぐに8割手当してくれたら、いつでも休んでやるよ」って自営業者ばかりですよ。なので、休業すればすぐに8割の補償や融資をするっていうやり方をとれば、休業要請でも十分に効いたはずなんですよ。でも、やらなかった。
 補償じゃなくても、もちろん無償の貸付でもいいんです。災害のときに無償の貸付がなされてきたし、その場合は財務状況によっては踏み倒しもオーケーなわけです。何でもいいから、とにかく、すぐにキャッシュが手元に渡るようにすれば、要請でも十分に人々は従うんです。ところがそれをすり替えて、「日本には憲法上の制約があるから、緊急事態措置が生ぬるいものにならざるを得なかった」とホザく連中が、続々と虫のように湧いて出てくるんですよ。

青木: 科学者の世界だけにとどまらないんでしょうけど。まさに官僚もそうだしジャーナリズム、メディア業界もそうなんですけれども。要するに現状をきちんと認識して、認識したものとして責任をもってそれをディスクローズして、「いまはこうしかできないけども、将来的にはこうすべきだから現在は、リスクを背負いながらもこうしますよ」っていうことが、きちんと言える官僚であり科学者でありジャーナリストでありっていうのが、少ないってことですよね。そこに尽きる感じがしますよね。

宮台: 尽きますね。だから、相対的にはね、大阪府の吉村知事が、ロックダウンの出口戦略として「何日間、感染者がこれ以下であればロックダウンを段階的に解除する」って数値目標をおっしゃった。それはいいことです。
 でも、さっき言ったように単なる「感染者数」には、意味がないんです。何をどのようちどれだけ検査しているのか分からないなら、全く意味がないんですよ。そうではなくて、数値目標を出すなら意味がある指標を出さなければいけない。それは感染死者数かもしれない。ただこの場合もね、感染死者をパーフェクトにカウントしているかどうか。本当は感染死なのに、普通の肺炎で死んだり、野垂れ死にしたことにして、ちゃんと数えていない可能性がある。それはないんだって尤もらしく説得できないといけないんだけど、それもない。
 とにかく、科学的に意味があるデータを元にした出口戦略を示せないと、ダメです。でも、それがないまま、感染者数をベースに自粛要請の解除が進む。全数検査なんかできっこないから、そんなものは全く望まないけれど。疫学的な統計リサーチがないのは致命的です。どのゾーンにどれだけ感染が進んでいるのかがわからない状況で、出口戦略もなにもないでしょう。ということで、実際にきちんとしたリサーチをしていないから、本来は出口戦略の立てようがないところに、だらだらと解除が進む。そうなれば、必ず第二波・第三波のぶり返しが来るだろうということですね。


▶宮台真司の考える、この先の社会

青木: これね、宮台先生は社会学者ですけれども、どう考えるべきですか。つまり、韓国なんかもそうだったけれど少し自粛をゆるめれば、感染がわっと広がると。これを抑え込めば、そりゃ多少は当然抑え込められると。実態はよくわからないんだけれど。これの繰り返しだと社会も経済ももたないですよね?

宮台: 従来のありかたではもたないですね。

青木: もたないですよね。だからこれに対して、その方式ではなく……まぁ世界中でその方式を試してはいるんだけれども。将来的には別の方式を探していかないと、とても持たないんじゃないかっていうふうに思いますよね。

宮台: そうですね。まさにそこから先がね、実は大問題なんです。まずね、最悪の場合、新型コロナウイルスには、しっかりとした免疫ができない可能性があるんです。世界中の免疫学者が、免疫の持続は半年から1年の可能性があると言っています。インフルエンザの免疫がそうでしょう。ワクチンによる免疫が半年しかもたないんですね。そういうものになる可能性があるんですね。
 しかも、コロナってインフルエンザより少し遅い速度ではあるけど確実に変異するので、ワクチンを打っても「今期は効かなかったな」ってことも起こるでしょう。他にもいろんな理由があって、コロナを封じ込めることができない可能性が高い[から感染スピードを遅らせることで弱毒化を待つしかない──感染スピードが遅い中で強毒だと次の宿主を見つける前に宿主を殺してしまうから]、というふうに世界中の免疫専門家が言っています。すると、世界でいつもどこかの都市がロックダウンしているような状況が、このあとずーっと、十年単位で続く可能性だって、あるわけですね。
 だから、それと両立する社会ってどういう社会なんだろうかっていうふうに考えなければいけない。具体的には、経済活動が止まってしまうからロックダウン[=外出禁止]というやり方を継続できない。だから生体モニタリングが必要になるんですね。そうすると、そこから先が問題になるんです。中国みたいな、統治権力によるバーティカルな[垂直的な]生体監視を行うのか。それともヨーロッパが推奨して、一所懸命にGAFA[国際標準の言い方ではFANGA]が推奨しているような、アーキテクチャが匿名の履歴データを動的にモニターして場所や交通経路にフラグを立てることで、後は市民が互いに賢明に振る舞うことを信頼し合うホリゾンタルな[水平的]シェアをするやり方をするのか。この対立が重要になります。ちなみにテックを使わずに、政府が情報をどんどん公開して市民の懸命な行動を信頼し、他方で市民は政府の情報を信頼して他の市民をも信頼する、というのがスウェーデンのやり方でしたね。
 [テック面でいうと]垂直の監視か、水平のシェアか、という対立構図が鮮明です。で、それは統治権力の在り方と密接な関係があります。世界の有名な知識人、たとえばユヴァル・ノア・ハラリ[イスラエルの歴史学者]やマルクス・ガブリエル[ドイツの哲学者]が言うように、どうやら勝ち目は垂直の生体監視にあるようです。ってのは、旧西側の社会は、程度の差はあれ、民主主義の前提を壊しつつあるからです。市民が互いを信用しなくなってきていて、だからこそ、民主政による統治権力をも信頼しなくなってきているんですね。
 日本が典型だけれど、安心厨を筆頭として、隙きあらばフリーライダー[タダ乗り野郎]になろうとか、隙きあらば自分だけ得をする方向に抜け駆けしようとする人間たちがたくさんいるような状況では、民主制は成り立ちません。同じ理由で、水平のデータシェアリングによって互いに賢明な振る舞いを信頼し合うことで社会を保つことが、ますますできなくなるでしょう。そうすると、統治を可能にするために、新型コロナのせいで、多くの国が次第に中国化していく可能性があります。そのことにどう抗えばいいのか。それをいろんな賢明な人間たちが問題にしているところです。
 でも、青木さん、思いませんか? 日本人が問える問題じゃないんですよ。日本人はそのはるか手前。小学生に入る前、保育園に入る前の、よちよち歩きの状態。12才どころかですね[マッカーサーがかつて、日本人は12歳の子供だと述べた]、足腰立たないような幼児です。その状態では、世界スケールの非常に重大な問題に取り組めるような段階じゃないんですね。とはいえ、今後日本はどんどん落ちていくだろうことを考えると、今後、僕たちは「世界が」どうなっていくのかってことを考えなければ、政府とともに墜落します。
 アメリカについていけば安心だって時代は、とうに終わっています。テックを含めて、これからのヘゲモニーは、アメリカから中国に確実に急速に移っていくでしょう。そうなると、日本はアメリカについていかないでおこうとしても、もともと自立できる政治力がない以上、どんな具合にどこと連携していくのかを考えなければいけません。そのとき、中国について行って大丈夫なのか? 習近平体制はとても一枚岩とは言えなくて、ものすごい軋轢を生みながらいまの状態を続けているわけだけど、日本人ってそういうことを全然知らないじゃないですか。そうした状態で「アメリカか、中国か」って言っているのは、10年、20年、早い感じがするんですよ。
 そんな段階のはるか手前で、日本には安心厨やウヨ豚がウヨウヨしていて(笑)、「安心せずに安全を模索する営み」さえできない思考停止の連中たちが「政府の言うことに逆らうのかー!」「あれは盛ってるんだー」「あれはBotなんだー」などと、思いつきをぎゃあぎゃあ騒いで、そんなコア支持層のネット世論[具体的にはヤフーニュースのコメント欄]を首相官邸が始終キョロ目でうかがっているという、世にも恥ずかしい状況です。これが日本。ザッツ・ジャパンなんですね。

青木: とりあえずだからまあ、当面はこの、安心厨とウヨ豚と(笑)、宮台さんがおっしゃる連中を……まぁこれ症状なんだろうからしょうがないですけど、退治しなくちゃいけないだろうなと。本当はほかにもね、新住民と自粛警察とか実は宮台さんに伺いたかったことがたくさんあるんですけれども、これはまた次回にいろいろお話を伺わせてください。ありがとうございました。

宮台: ありがとうございました。                                                   
以上