首都大学東京での、来年度基礎教育科目「社会意識と社会構造」シラバス
2014年度(来年度) 基礎教育科目「社会意識と社会構造」シラバス
★授業方針・テーマ
自らを自由であると意識する者の表現が、意図せずして時代や社会を刻印されてしまうのは、なぜか。本講義では戦後日本のサブカルチャーを素材としつつ、この問いに答える。そこではマルクス主義的な上部/下部構造論や、グラムシ的な文化的ヘゲモニー論は否定され、社会システム理論的な立場から意味論の遷移の基本メカニズムが見出される。
★習得できる知識・能力や授業の目的・到達目標
文化的表現を時代や社会に関係づける思考は、マルクス主義の影響下「思想の科学」グループが70年代までは豊かな業績をもたらしたが、以降失速した。いま流行の「文化研究」も欧州マルクス主義(グラムシのヘゲモニー論)の影響を受けており、エスニシティやクラスやジェンダーやナショナリティといった社会的文脈に関する〈社会的文脈の無関連化機能〉を特色とする70年代半ば以降の日本的コンテンツ史を分析できない。文化的表現から時代や社会を見通す適切な学問的方法を修得することを目的とする。
★授業計画・内容
(1)本講義では、まず思想史を振り返ることで、ヒューム=スミス=ミル的な解答のパターンバリエーションを整理し、リベラリズムないし保守主義的な解答のパターンと、マルクス主義的な解答のパターンがあることを、徹底的に頭に叩き込んでもらう。
(2)次に、戦後少女文化史・戦後歌謡文化史・戦後青少年漫画史・戦後性愛表現史・戦後映画史・戦後テレビ番組史などについて、すべてを通底し一貫する時代区分を提供する。具体的には55年、64年、72年、77年、83年、92年、97年、02年に画期が見出される。
(3)それを踏まえ、各時代区分に相当する各ジャンルの作品群を一瞥する。実際に音楽作品を聴いてもらい、あるいは漫画や写真を見てもらい、あるいはビデオやDVDを見てもらう。そうすることで、各時代区分のコミュニケーションのモードを手触りや雰囲気に至るまで、徹底的に理解する。
(4)続いて、各時代区分ごとに、次の時代区分に移行するモメント(動因)が含まれていることを理解する。ならびに、複数の潜在的モメントのうちの一部が、偶発的に、あるいは環境条件によって因果的に選択されて、次の時代区分に移行する有り様を、よく観察してもらう。
(5)「自らを自由であると意識する者の表現が、意図せずして時代や社会を刻印されてしまうのは、なぜか」の問いに再帰し、私たちが同時代を観察する際に有効な理論的図式を整理した上で、自らのものとしてもらう。その際に、対抗的理論との対照をも理解してもらう。
★テキスト・参考書等
参考書は、宮台真司・石原英樹・大塚明子『増補版サブカルチャー神話解体』(ちくま文庫)。そのほか、CD、ビデオ、DVD、コミックスなど、随時。なお、宮台公式ホームページ「ミヤダイ・ドットコム」に関連する文章が随時アップされるのでチェックすること。ミヤダイ・ドットコムのURLはhttp://www.miyadai.com/
★成績評価方法
記述式の筆記試験で評価する。筆記試験は原則「自問自答」方式。自分で適切な問題を作成して回答する。試験時間は90分。問題難易度・一般性・論理性が適切であれば基準点80点を与える。加点要因として忠実性と独創性をカウントする。なお筆記試験を受験した者に限って自主的に提出されるレポートも成績評価の参考にする。その場合、レポート提出を以て筆記試験の代用とすることはできない。
★特記事項
サブカルチャーを素材にしているので、とっつきやすい講義に見えるが、中身はきわめてハードであり、気軽に聴講することは不可能である。また、サブカルチャー(マンガ・音楽・映画・小説など)に関心が薄い学生でも聴講できるように配慮するが、授業で言及した素材を自分で探し出して検分する熱心さが不可欠となる。
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