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建築デザインコンペティション:Tepcoインターカレッジデザイン選手権 出題者としての講評です

投稿者:miyadai
投稿日時:2007-02-16 - 11:55:20
カテゴリー:お仕事で書いた文章 - トラックバック(2)

総評

 コンビニ化で地域や家族の機能が縮減されたように、情報環境が物的環境を代替することで住宅に求められる機能も縮減される。単に復活を謳うだけでは反動の誹りを免れない。
 一定の情報機能へと縮減された住宅的非住宅ないし非住宅的住宅の可能性を一度構想してみて欲しい──それが課題の趣旨だ。反建築的テーマたるがゆえに、難しかったようだ。
 難渋は予想を超えていた。建築の将来を考えると暗い気持ちがする。目立ったのが[閉じ籠る場所/出会いの場所]の二項図式の上で「気配を感じる家」をパッケージするもの。
 そうだろうか。閉じ籠ることはいけないことか。最優秀・優秀作の共通項は、消極的に言えばそうした罠に陥らず、積極的に言えば反建築的な時代を引き受ける再帰性を示す点。
 仕方ない(抗えない)ということと、仕方なさを自覚する再帰性とは違う。再帰性は、強いられた二項図式を脱する第三項を示し得る、辛うじてのラスト・チャンスである筈だ。




上位3作品

最優秀賞 勝又洋 ガラス窓のない家
課題の二種のモードを[個室漫画喫茶的/オープンカフェ的]とパラフレーズ。大扉の開閉だけでモード転換をする。[全開/半開き/閉鎖]が周囲への意思表示になると同時に自分の現在の気分に再帰的になれる。全て秀逸。

優秀賞 後藤崇夫 三木基嗣 スケールのハコ
物質環境が情報環境に置換されても最後に残るのが「物置」だと分析。大空間から小空間への連続体のどこに物を置いたかが辛うじて私的世界観を示す。私的世界観の再帰的な観察の場が「最後の住宅」だとする。鋭い分析だ。

優秀賞 戸田智 WALL HOUSE
二種のモードを[壁のウチソト/壁のスキマ]とパラフレーズ。より大きな焦点は「物から情報へ」の流れを停止させる巨大空間。同じものを与那国島の海に面した崖上の廃工場跡で見た。課題を無化する終末論的な批評性だ。




その他の佳作

佳作 縣真之介 荻野将志 おおきなセカイのちいさなイリグチ
ウチとソトの間にかつて存在した、勝手口周辺ないし私道の如き緩衝空間。それを回復することが、課題の二種のモードが示す「現実の酷薄さ」を緩和するだろうとの批評を感じる。ノスタルジックな楽天性が魅力かつ弱点だ。

佳作 上杉康介 ひとつの部屋 いくつかの場所
隅の直角がルーティン化した日常を、非直角が脱ルーティン化した非日常をもたらすとする。だが非日常は可変性であって、固定化されればどのみちルーティンだ。再帰性はむしろ箱庭療法的な自己観察の可能性に宿るだろう。

佳作 柴山浩紀 高橋元貴 向山裕二 AUTOPOIESIS
集住性をモチーフにした応募作。渋谷を産廃投棄場所&ブルーシート的テント村にすることで、強制的に加齢と新陳代謝を可視化する。課題の二種のモードの退屈を批評するも、ドイツの空き家占拠運動の既視感を与える。

佳作 谷山裕一 土の表面性
元々、現実の虚構化と虚構の現実化は分断されておらず、世代を超えて連なる歴史(妄想)に半ば再帰的に連なる営み(演出)が生活だった筈。時間の不可逆な蓄積性の消失が問題だとする。正しいがノスタルジックな楽天性だ。

佳作 岡田良太 洗濯からハジマル
これも二種のモードを[閉じ籠る場所/出会いの場所]とパラフレーズ。団地の屋上にあった共同物干場を「出会いの場所」として復活、住居で囲む。似た試みが反復されるも芳しくなかった筈。ノスタルジックな楽天性だ。

佳作 綾城圭 藤澤達郎 痕跡化する住宅
更地化の抑止でオウトポイエティックな「街区のバラック化」を目指すとも見えるし、建坪率20%で琉球家屋の伝統的風景に連なろうとするとも見える。何かに触れているとは感じさせるが、アイディアの洗練度が低い。

佳作 中山晴貴 川口琢磨 4slabs 8floors
課題の二種のモードを[ツール(他者不在)/ショーケース(他者意識)]とパラフレーズ。視線の運動によってツール化を解除する試み。よくある「気配を感じる家」の印象だがツール化を解除すべき理由が不明だ。