■連載の第九回です。前回は「社会秩序の合意モデルと信頼モデル」についてお話しました。合意モデルも信頼モデルも、社会の秩序──確率論的にありそうもない状態──が如何にして成立・維持可能かに答える秩序モデルですが、合意モデルのほうが古典的でした。
■合意モデルとは、秩序の出発点に、ホッブズの自然権譲渡やパーソンズの価値共有のような「合意」があると見倣す立場です。これは秩序のありそうもなさを合意のありそうもなさに移転しただけで、神話としてならいざ知らず、社会システム理論としては失格です。
■社会システム理論は信頼モデルを採用します。社会システム理論は、秩序はいかにして可能かという問題を、まず二重の偶発性問題──私の偶発的な振舞いに依存する他者の偶発的な振舞いの見通し難さにもかかわらず私はなぜ平穏に行動できるか──に移転します。
■その上で、私たちが、逆上した相手に刺されるかもしれないのに文句をつけたり、猫肉を売られるかもしれないのに知らない相手からハンバーガーを買ったりするのは、合意の確認によるのではなく、そういうことがありえないという信頼に基づくのだ、と考えます。
[続きを読む]