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■東京都幼小中高性教育研究会は、昨年11月から今年1月まで都立高20校に在学する男女生徒3500人を対象にした性意識調査の結果を7月21日までにまとめた。この結果は、同日開かれた厚生省の特定感染症予防指針作成委員会において報告された。 ■性体験率は高三男子38%、高三女子39%。ちなみに同研究会による96年の調査では高三男子29%、高三女子34%、93年の調査では、高三男子27%、高三女子23%である。男子は27→29→38%、女子は23→34→39%と増えてきている。 ■併せて都幼小中高性教育研究会が公表したデータによれば、初交避妊率は全学年男子48%、全学年女子49%だが、2回目以降の常時避妊率は男子27%、女子23%に留まる。膣外射精をカウントしている可能性を考えると、実際の割合はさらに低いだろう。 ■他方厚生省は7月19日、全国約六百の泌尿器科を中心とした医療機関からの報告をもとにまとめた性感染症動向調査結果を公表したが、昨年のクラミジア症患者数は15〜19歳男子が753人で、95年調査から8割増。同年代女子は1037人で、6割増だ。 ■都幼小中高性教育研究会の田能村祐顧問は《高校生は自尊心や目標が持てず、安易な性行動に走りがちだ》とコメントしているが、私が目にした限りでもマスコミに登場するコメンテーターの多くが高校生がセックスすることについて否定的なコメントを寄せている。 ■しかし以前から繰り返し述べているように、伝統的な道徳規範の緩みが性体験率の上昇をもたらしているのではない。むしろまったく逆だ。伝統的な道徳規範に抗して進められた近代学校教育が一部用済みになり、子どもらが脱学校化したことが最大の理由である。 ■日本の伝統的村落では男女ともに初交年齢は15歳前後で、それが近代学校教育の浸透につれて都市部上層から次第に初交年齢が上昇、1960〜70年代にピークに達した。それが80年代以降の脱学校化=第四空間化のプロセスで、元に戻りつつあるだけなのだ。 ■近代学校教育の本質は次回詳しく述べるが、子どもが大人になるに際し、どこの伝統社会でも例外なく行なっていた数週間の通過儀礼を撤廃、十年近くの義務教育課程を置いたのに併せて、本来は性的なのに性的であってはならない「思春期の身体」が生み出された。 ■ところが近代学校教育が「思春期の身体」を生み出す背景なった近代過渡期の幾つかの条件が消えた。例えば(1)村落の習俗を蹴散らす国民化の必要は既になく、(2)号令一下規律正しく振る舞う都市労働者を養成する必要も消滅した。近代が成熟期に達したからである。 ■欧米諸国では、成熟社会化に伴う学校教育のポジション変化に伴って初交年齢が15歳前後に低下したが、その後を追って日本人の初交年齢が低下するのは健全なのだ。それどころか十年以内に初交年齢はさらに3〜4歳低下することは間違いないが、それでいい。 ■問題は、近代学校教育が成熟社会で当然被るべき機能変化に無自覚な大人たちが多すぎることだ。文部省が6月10日までに全国すべての幼小中高校に約12万部配布した『学校教育における性教育の考え方、進め方』などを見ても、暗澹たる気持ちにとらわれる。 ■そこには注意項目が単なるお題目として羅列されているだけで、性がコミュニケーションの問題であり、性教育がコミュニケーション実践であることが完全に忘れられている。性教育がどのようなコミュニケーションでありうるのかが、そこから全く見えてこない。 ■私が高校で性教育の実験授業をする場合、男女取り混ぜて、援助交際の是非、浮気の是非、異性による勘違い、男にゴムをつけさせる方法などを徹底議論させる。それを通じて同世代の同性や異性が何を考えているのか知り、自分に必要な戦略を考えてもらうのだ。 ■ところが自分でやっていて変な話だが、こういう授業は性教育を担当している教員の大半にとって不可能である。実際議論の最中には、ゆきずりだの、3Pだのといろいろ出てくるが、教員のキャパシティーを圧倒的に超えているからだ。ならば、どうすればいいか。 ■私が提案してきたことだが、フランスのように政府の予算でどんな事例を見聞きにしても動じないタフな性教育専従スタッフを数千人単位で養成し、行商人のように全国の学校を回らせるのがいい。彼らは客人(まれびと)だから生徒の個人的相談にものりやすい。 ■まもなく低容量ピルが解禁される。しかし日本以外の先進国は、娘が中高生になったら必要に応じて母親が率先してピルを服用させるというコミュニケーションが前提である。しかしこういうコミュニケーションも日本の親のキャパシティをはるかに超えるだろう。 ■こうしたボンクラな教員や親にいつまで性教育を任せるつもりか。事態は急を要する。(了) 1999年8月1日(日)朝刊一面・論壇 |