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■ テロ事件が明らかにしたメディアの可能性

■米国同時テロ事件は、インターネット・メディアの持つ問題点と可能性を浮き彫りにした。第一は、公安上の問題点。第二は、受け手にとっての利用可能性。第三は、送り手にとっての利用可能性だ。

■別の場所でも述べたが(『サイゾー』11月号・M2対談)、テロの動機は狂信ではなく、近代の歴史と米国の中東政策が生み出した政治的怨念だ。米国製「原理主義」の言葉に惑わされてはならない。

■政治的怨念に基づくテロを事前に鼓舞、事後に正当化するのが宗教理念だ。米国が原理主義の語を使うのは、自らの歴史が生み出した政治的怨念を、宗教的狂信というラベルで覆い隠す意図に基づく。

【墓穴を掘る近代】

■そのことを踏まえて、公安上の問題を述べよう。近代の歴史は、怨念を生み出してきた。怨念は一九世紀の帝国主義時代から植民地に拡がった。怨念が近代社会にとって無害だったのは、近代がさしてハイテク化していなかったからだ。

■ハイテクの恩恵は、近代社会を憎む人々にも及ぶ。ハイテクは、近代を憎む人々の、以前なら不可能な国際的連携を可能にし、更にハイテク自体を武器にした犯罪を可能にした。それが近代を脅かす。

■この種の犯罪をハイテクで防止できると考えてはいけない。今回のテロは単独でも実現できる。ナイフさえ必要ない。自分が機長や原発職員になって、システムの中枢にタッチできるようになってから暴走させれば、ハイテク社会はアウト。TMDやNMDもダメだ。

■・頭が良く、・ねばり強く、・命を恐れない者が、破壊動機を持てば、近代社会は原理的に対抗できない。エシュロンのごとき徹底した行動監視システムで何とかできる筈だという向きもあろう。

■三つの点で誤りだ。第一に、賛成派も反対派もエシュロンを過大評価している。爆発しつつあるインターネット情報の僅か5%未満しか監視できないのが現状だ。だったら、現在でも莫大な予算を更に増やせば…と単純に思ってはいけない。

■誤りの二点目だが、今回のテロに関するコミュニケーションは事前に捕捉されていた。だから容疑者の身元がすぐ判明した。なのに防止できなかった。なぜか。事後に犯罪痕跡を完璧に追尾できても、事前にコミュニケーションの意味まで解析するのは現実的に不可能だからだ。

■三点目は公安の逆説。自由社会は、社会を破壊する自由も許容しかねない。だから社会を顛覆する企てを監視する。これが公安活動だ。公安は随時合法性の枠外に出ざるを得ない。合法性にこだわって社会が崩壊しては元も子もないからだ。

■だが公安活動が行き過ぎると、公安の目を気にせずに社会生活を営めなくなり、自由が脅かされる。自由社会の枠組を支える公安活動が、これでは本末転倒だ。近代社会の維持存続を保証する装置が、近代社会をスポイルしてしまうのだ。

【新しいニュース授受の可能性】

■さて今回、テレビで地獄の映像を見た人々がインターネットに殺到する現象が、世界中で生じた。情報不足もあって、眼前に展開するイメージをどう解釈していいか分からず、また周囲の人々がどう解釈しているか分からなかったからだ。

■日本では2ちゃんねるの電子掲示板(速報板)へのアクセスが多かった。多勢がテレビをつけっぱなしにしながらアクセスして、他の人々の受けとめ方を観察した。実は日本以外の国々でも、各種の掲示板が同じように機能していたのだ。

■私はここに、マルチチャンネル時代の、ニュース授受をめぐる棲み分けの可能性を見出す。ヘッドラインやストレートニュースは地上波で、分析や解釈はCSやインターネット放送局で、周辺観察は電子掲示板で、といった具合である。

■受け手にとっての利用可能性が示されたばかりではない。送り手にとっても同じだ。インターネットのニュース配信番組「マル激トーク・オン・ディマンド」(日本ビデオニュース)を製作している立場から、是非言いたいことがある。

■事件直後から同番組で、地上波や新聞のニュースが米国ソースの垂れ流しで偏向していること、覆い隠された政治的動機(嫌米動機)を手当てする以外に根本的対処はあり得ないことを述べてきた。さて私はアクセス解析に注目している。

■各放送局と霞ヶ関からのアクセスが突出するのだ。視聴率は低くてもオピニオンリーダー層に的確に命中すれば影響力を期待できる。制作費が低くて視聴率を頼らなくていいインターネット番組ならではの世論形成の在り方が見出されよう。


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