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■2000年10月に政府IT戦略本部(旧・高度情報通信社会推進本部)の個人情報保護法制化専門委員会が首相に提出した「個人情報の保護に関する大綱」を下敷きに、政府は直ちに「個人情報保護に関する法律案」(個人情報保護法案)作成作業に入った。 ■この法案は99年第145回通常国会で盗聴法、国旗国歌法などと共に成立した改正住民台帳法に絡み、連立与党の公明党などが、行政による国民情報の把握にチェックの網をかぶせるバーター法として要求していたものだ。 ■ところが99年11月、政府の高度情報通信社会推進本部・個人情報保護検討部会が中間報告案「我が国における個人情報保護システムの在り方について」を発表。続いて2000年6月、IT戦略本部・個人情報保護法制化専門委員会が「大綱案」を報告する。 ■そこでは、IT関連規制の名目で、規制対象は行政から民間(個人情報取扱業者)に移動。個人情報取扱業者には報道も含まれるとの見解が示され、行政ではなく国民をチェックする法律にすり替わっていた。 ■背景には、98年10月の参院選での大敗北を反省した自民党が、「椿発言」問題を契機に報道モニターシステムを創設したことに始まり、99年8月に自民党政調会「報道と人権等のあり方に関する検討会」が法制措置の検討を唱うまでの、一連の動きがある。 ■加えて2000年6月の森総理買春報道、同年10月の中川官房長官愛人スキャンダル報道に衝撃を受けた自民党議員らが、個人情報保護法で報道を規制しようとの動きを見せたことも見逃せない。それに媚びた内閣官房の二流官僚が法案を作成した。 【反対勢力の問題点】 ■9月2日、日比谷野外音楽堂で開かれた「個人情報保護法案をぶっ飛ばせ!201人集会」に出席した。そこで私が述べた論点を再録する。第一に、法案反対勢力が「個人情報保護法」という名称を用いる時点で、第一歩目にして敗北している。 ■反対運動が盛り上がらないのは名称の問題が大きい。「盗聴法」の名称はいかがわしい印象を与えるが、「個人情報保護法」の名称はよさげな感じがする。法案推進勢力は、明らかに前回の失敗──通信傍受法への名称替えの遅れ──から学んだ。 ■第二に、大半のウェブ管理者が自分たちの利害に関わることを理解していない。法案を読んでおらず、判例を知らないのが原因だが、ウェブ管理者は全員この法律の標的になると思っていい。キーワードは「不作為犯」。説明しよう。 ■特許情報を閲覧可能な形でストックするだけで「頒布」に当たるとする最高裁判例がある。特許権者の権利侵害を抑止する手立てを(取ろうと思えば取れるのに)取らなかったから、不作為犯を構成するという法理。類推解釈を適用すればどうか。 ■多くのウェブサイトは、クッキー情報を含め、バックグラウンドにデータベースを抱える。それが「容易にハッキング可能」な状態で放置されれば、管理者は不作為犯に問われうる。「容易にハッキング可能」かどうかの判断は恣意的だ。 ■BBSはもっと大変。電話番号など個人情報の書き込みがよくあるが、これらを速やかに削除しない管理者は不作為犯に問われうる。グルになった者にわざと個人情報を書き込ませて当局に摘発すれば、謀略が容易に成立する。 ■内閣は千人以上のデータベースの管理者が対象になると言うが、法案にそんなことは書いてない。局長答弁を言質に取る程度では運用変更の可能性を払拭できない。官僚の中にさえ、法案が強力すぎて自分たち自身がハメられる可能性を危惧する声がある。 ■第三に、反対勢力が採用するデモや集会や声明アピールといった方法には大した実効性がない。かつてなら数千人規模の集会は、シンパサイザーが同心円的に存在するがゆえに「国民の声」の証明たりえた。でもそれは昔の話だ。 ■拙著でも述べたが、「大義名分の尤もらしさ」の向こうにある「アーキテクチャに潜んだ権益」を洞察するのは素人には困難だ。勢い、集会は成功しても、反対勢力は集会参加者しかいなかったということになりがちだ。 ■第四はそれに関連するが、政治家へのロビー活動こそが有効だ。スキャンダルから政権を守るために法案を推進する政治家は、永久に権力中枢にいられると勘違いしている。権力中枢から離れた者は、逆に政敵をスキャンダルで追い落とせなくなるのにだ。 ■これは自縄自縛だが、官僚とは違って大半の政治家は理解しない。とすればそこにロビー活動のリソースがある。デモや集会が「成功」しても、政治家はそんなイベントがあったことすら知らず、レゾンデートルを与えられた公安が喜ぶ。それではダメだ。 |