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インターネット選挙運動とは何か?

■前回の衆議院選挙の際、電脳有権者ネットワークの代表になった。インターネット選挙運動の解禁を求める団体だ。インターネット選挙というとインターネット上での投票システムを考えがちだ。だが私たちが問題にするのは別のことだ。

【インターネット選挙運動とは?】
■公職選挙法では、公示期間中の文書配布は、選管が許可した(選管の印章のある)文書しか配布できない。ウェブ文書やメール文書はどうか。自治省の解釈だと、ウェブ文書やメール文書も公選法が配布を禁じる文書に当たるという。

■確かにメール文書は、郵便箱に投函される文書と似て、受信者が一方的に送りつけられる。だがウェブ文書は違う。送りつけられるのではなく、私たちが必要に応じて自発的に読みに行くものである。とするなら筋が違う。本来の筋とは何か。

■郵便物の大量送付や戸口への大量投函は、物量作戦に乗り出せる人的・金銭的な資源を持つ陣営を有利にする。戦後の公選法での公示期間中の文書配布禁止は、資金も人手も潤沢な共産党の物量作戦に対処するために制定された経緯がある。

■とすればウェブ文書は違う。パソコンがあれば共産党だろうが一介の市民だろうがホームページを作れる。つまり物量作戦の有利不利をむしろ無関連化する。その意味で民主制の本義に適うのだ。

■その点で言えば、実はメール文書も、電子データの配信であるから、物量作戦で勝負できる人的・金銭的リソースの多寡を無関連化する。ウェブ文書と違って一方的に送りつけられるメールだが、この点では郵便やビラとは全く違う。

■とすれば自治省の解釈の根拠は何か。電脳有権者ネットワークでは、これから自治省に随時質問書を出すつもりだ。まずは、誰がどういう理由でウェブ文書や電子メールが公職選挙法が規定する文書にあたると解釈したのか、責任主体を特定したい。回答に応じて踏み込む予定だ。

【面従腹背を可能にするメディア】
■ところで今回問題にしたいのは、インターネット選挙運動の解禁で、どんな利権の移動が生じるか、言い換えれば、インターネット選挙運動の禁止で守られる利権は何かだ。ヒントは「面従腹背」だ。

■五五年体制を支えてきたのは土建屋的動員・宗教団体的動員・労働組合的動員だ。自分が属する共同体への同調圧力を利用した集票が専らだったのだ。属する共同体を持たぬ者は稀で、属する共同体に逆らった行動を示す者も稀な時代──。

■ところが長野の田中康夫県政成立をはじめ、栃木や千葉の首長選の結果が示すように、共同体的動員をかけて票読みでは勝利が見込めたのに、いざ蓋をを開けると、動員したはずの票が敵陣営に入れられるケースが目立ってきた。なぜか。

■答えはコミュニケーション・チャンネルの複線化だ。テレクラ研究でも紹介したように、テレクラ・マニアなる存在は、私と同世代(四〇代前半)以下が専らで、盗撮やテレクラ絡みの犯罪を起こす者も、ほぼ同様の年齢分布だ。

■一口で言えば、共同体の対面コミュニケーションよりも、メディアを介したコミュニケーションの重要性が高まるほど、共同体成員の感受性も想像力も、共同体の範域を越えるようになるのが、理由だ。結果、抜け駆けや面従腹背が容易になる。

■人間は、コミュニケーションを通じて動機づけを獲得する。一人の人間にとってのコミュニケーション全体に占める、対面の共同体的コミュニケーションの比率が減るほど、より大いなる蓋然性で、彼は共同体の外側で動機づけを獲得する。

■加えて、インターネットの「匿名性」が──周囲から見えないことが──、自らもそうしたメディアを通じて情報を発信し、他者から応答を貰うという経験を、膨大に蓄積させる。つまり共同体の外で獲得した動機づけを、匿名メディアを通じて実行動化するチャンスが増えるのだ。

【背後の政治的利権を見抜け】
■伝統的な共同体的動員を通じて利権を確保・維持してきた者たちが、こうした共同体内部からは見通せないコミュニケーション・ネットワークが拡大することに、不安や危惧を覚えるのは当然だ。そういう人たちは、どう行動するだろうか。

■結論。インターネット選挙運動を禁じるような法律解釈、ひいては統治権力によるインターネットのサーバー検索を許す盗聴法(通信傍受法)や、統治権力がプロバイダーに介入する理由を与える個人情報保護法は、従来の共同体型の政治的利権と結びついている。私たちは、このことを徹底的に見抜く必要がある。


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