宮台真司からの近況報告です。更新はセンセの忙しさ次第で不定期?
Message from ミヤダイ |
2003年10月19日
(前回の書き込みは10月18日です)
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世論調査の読解力こそ国民の利益
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■付録CD−ROMには第133回「世論調査を疑え 」[03年10月3日収録]を載せた。選挙
の季節が到来し、世間では世論調査に政治家達が一喜一憂。さて、支持率の1%の増減に一
喜一憂するような態度に意味があるか。
■ない。世論調査は、(1)サンプリングに関わる誤差、(2)質問項目に関わる誤差、(3)実査
に関わる誤差を含む。(3)は番組(http://www.videonews.com/)に譲り、(1)と(2)を紹介す
る。
【サンプリングに関わる誤差】────────────────────────
■最も正確なのは国民全員に尋ねる全数調査だが、コスト的に無理なので、限定された標
本を調査する(国勢調査が例外)。国民全体(母集団)から標本を抜き出す作業がサンプ
リング。
■番組ではサンプリング法を紹介しなかった。ランダムサンプリングと割当法に大別され
るが、母集団の多元的属性を比較的忠実に再現できるのは前者。大半の調査が前者を採用
し、データを読み誤る心配がないので、ここでも紹介しない。
■ここでサンプリング誤差として紹介するのは、ランダムサンプリング。乱数表を使って
標本を抜き出す場合だ。大切なのは標準誤差(信頼区間)。通常、信頼率95%の標準誤差
を用いる。どんな意味か。
■国民から五百人を抜き出す調査(有効回答百%)で、「犬を飼ってますか」という質問
に10%がイエスと答えるとき、信頼率95%の標準誤差は±2.6%。国民を全数調査してイ
エス回答が7.4〜12.6%に収まる確率が95%という意味だ。30%がイエスと答えると標準
誤差は±4.0%。50%だと±4.4%。50%に近づくほど標準誤差が大きい。
■サンプル数が多いと標準誤差も縮小。五百人調査でイエスが10%だと標準誤差は±2.6
%。千人調査で±1.9%。二千人調査で±1.3%。三千人調査で±1.1%。サンプルが増え
るほど縮小率は小さくなる。通常は三千人調査をめざす。
■千人を対象とした有効回答60.9%の03年8月調査(テレ朝)では小泉内閣支持率56.0
%。全有権者9600万人だから標準誤差4%で、全有権者の52%から60%が小泉内閣を支
持する確率が95%というアバウトさた。
■だが小泉内閣支持率56.0%と表記すると、有効数字小数点以下1桁みたく(全有権者の
55.95%から56.04%が小泉内閣支持のように)見えて誤解の元。アメリカの世論調査の
ように標準誤差を付記するか、56%前後と表記すべし。
【質問項目に関わる誤差】────────────────────────
■次に質問項目に関わる誤差。第一の問題はセンシティブ質問。道徳的善悪に関わる質問
では、回答が社会的期待の圧力に押されがちなことをいう。投票すべしとの社会的期待の
圧力ゆえに、本心と裏腹に「投票に行く」と答えたり。
■第二の問題はダブルバーレル質問。イラク攻撃直前の日テレ調査では「イラク攻撃で米
国を支持する方針の日本政府を支持するか」との質問に52.1%がイエス。だが質問文を見
ると二つの焦点が含まれ、どちらに反応したのか不明だ
■「米国のイラク攻撃をどう思うか」という焦点と「何事につけ米国に追従する日本政府
をどう思うか」という焦点。正しくはまず「米国のイラク攻撃を支持するか」を尋ね、次
に「今回米国を支持する日本政府をどう思うか」を尋ねるべし。
■第三の問題は誘導質問。「地方に冷たいと言われる小泉内閣を支持しますか」などが典
型だ。一つは回答を否定的に誘導するのが問題。もう一つは小泉が地方に冷たいと思わな
い者が何に反応して答えたのかが不明になるのが問題だ。
■質問紙全体では誘導があった方がいい場合もある。NHK「日本人の性行動・性意識」
調査を設計した際、単独で訊けばセンシティブな質問が含まれるが、質問配列を工夫する
ことで違和感なく答えられるように誘導した。これは推奨されている。
■第四の問題は価値観を訊く質問。見かけとは別にダブルバーレル化しやすい。「売春は
いけないか」と訊かれる場合、「世間はどう捉えていると思うか」に反応する人と「世間
と別に自分はどう思うか」に反応する人が混在する。二つの質問に分けて訊くべし。
■第五の問題はコミットメント度。内閣支持をイエスかノーかで二値的に回答させる場合、
何の関心もないのに答えた人と、政治関心が高くて熟慮して答えた人が混在し、解釈に困
る。政治関心と内閣支持を別個に尋ね、クロス集計すべし。
■詳細は番組に譲るが、実査に関わる誤差として、電話や訪問の時間帯、質問の多寡、郵
送法か留置法か面接法か、報酬の有無、調査主体イメージ、回答場所により、有効回答率
ならびに有効回答者の属性が変わる問題もあり、解釈に影響を与える。
■今回の前半は統計学の話、後半は社会調査法の話だ。社会調査法は社会学研究者を志す
者が叩き込まれる。だが世論調査の読解力は国民の利益。多くの人が知るべし。
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