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■マル激トーク・オン・ディマンド 第468回(2010年04月03日)
密約は本当に必要だったのか
ゲスト:春名幹男氏(ジャーナリスト・外務省密約有識者委員会委員)
<プレビュー>
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これこそが政権交代の最大の成果なのかもしれない。
岡田外務大臣は、自らの肝いりで立ち上げた日米密約に関する有識者委員会が、核の持ち込み、朝鮮有事の際の日本からの米軍の出撃、沖縄返還時の現状回復費の肩代わりの3つの密約が、日米間で交わされていたとする検証結果を、3月9日、発表した。
特に日米安保条約改定時の核の持ち込みと、沖縄返還時の原状回復費の肩代わりの2つの分野では、「広義」との条件付きながらも、過去の自民党政権がその存在を言下に否定してきた密約の存在を政府が正式に認めたことは、戦後史の中でも特筆すべき出来事と言っていいだろう。
有識者委員会のメンバーとして、密約の検証作業に携わったジャーナリストの春名幹男氏は、核持ち込みの事前協議に対する認識が密約に当たるかどうかをめぐり、委員の間にも意見の相違はあったが、春名氏自身は、これは事実上核の持ち込みを容認するものであり、明確な密約だったとの認識を示した。
今回の検証作業で新たに発見された引き継ぎ文書などによれば、事前協議に対して日米間の認識に違いがあることは初めから双方とも理解しており、あえてその違いを「お互いに深追いしない」ことが記録されていたという。核兵器の存在を「肯定も否定もしない」アメリカのNDCD政策を知りながら、核の持ち込みついての事前協議の申し入れがないので、核の持ち込みはないと言い切ることが密約そのものであり、日本は国際的には非核三原則を謳いながら、実際は核の寄港や通過は黙認する非核2.5原則だったと春名氏は言う。
1959年から1960年当時、安保条約改定交渉をめぐって国内は騒然としていた。国会は紛糾し、デモも毎日のように起きていた。とてもではないが、核兵器を搭載した艦船の日本への寄港を公然と容認できるような政治状況ではなかった。
また、そもそも日米では核に対する感情や考え方が180度異なっていた。その原点は広島・長崎への原爆投下にあるとの見方を春名氏は示す。日本人の誰もが核の恐怖を脳裏に焼き付けた原爆投下は、米国にとって兵器としての核の有効性を確認するものだった。それ以後アメリカは、戦後の軍事戦略を核兵器を中心に組み立てていった。
日本国民の核アレルギーは簡単に取り除けるものではない。しかし、冷戦下において東西両陣営の核開発競争が進む中、日本の安全保障の確実なものにするためには核兵器を戦略の中心に据えるアメリカの加護を受けるしかない。密約はそう判断した当時の政権の苦渋の決断であり、密約そのものは合理的なものだったと春名氏は言う。
しかし、国会や国民のチェックを受けないばかりか、事実上国民を騙すことになる密約の妥当性を判断するためには、後世まで記録が保存され、それが一定の期間と条件の下で開示されることが不可欠となる。今回の密約騒動も、まずアメリカ側で機密が解除された密約文書が見つかったことがきっかけだった。
ところが日本側の調査では、密約の証拠を裏付ける重要文書の多くが破棄されるなどして行方不明になっていることが判明した。3月19日の衆院外務委員会では東郷和彦元条約局長が、自らが整理し後任に引き継いだはずの密約ファイルのうち、最も重要な文書のいくつかが消えていることを明らかにしている。また、外務省が大量の文書を廃棄していたという情報を東郷氏が証言している。
外務省は何を隠したかったのか。春名氏によると、情報施行前の文書大量廃棄は、各省庁でも起きており、外務省に限らないとはいうが、特に外交密約は文書が破棄されてしまえば、真実は永遠に闇の中に葬られてしまう。脱官僚、政治主導を標榜する民主党政権の岡田外相が、外交文書の保存・公開基準を定める省令の制定を急いでいることは評価に値するだろう。
また、今回の密約調査で、政と官の関係にも問題があったことが明らかになった。高度な政治判断だったはずの外交密約が、いつの間にか官僚の引き継ぎ事項となってしまったために、説明責任を負いたくない官僚が、その証拠を隠滅するというようなことが起きてしまったからだ。仮に密約を認めるとしても、なぜそれが政治家から政治家へと引き継いでいくことができなかったのかは検証を要するはずだ。
戦後史上初めて明らかになった密約の内容とその妥当性を、委員の1人として実際の検証作業にあたった春名氏とともに議論した。
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報告・青木理氏(ジャーナリスト)
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■マル激トーク・オン・ディマンド 第256回(2006年02月23日)
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■プレスクラブ (2009年07月13日)
核密約を否定した政府答弁は修正を
河野太郎 衆院外務委員長記者会見
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